基本情報
分類: アブラナ科ダイコン属
学名: Raphanus sativus var. longipinnatus
英名: Japanese Radish, Daikon
原産地: 地中海沿岸、中央アジア
大根は日本の食卓でもおなじみの根菜で、漬物や煮物、サラダなど用途が広く、家庭菜園でも人気の高い野菜です。根が深く伸びる性質があり、土壌の深さと柔らかさが収穫の成否を大きく左右します。比較的発芽率が高く、初心者にも育てやすい部類に入ります。
主な品種例:
・青首大根(現在の主流品種)
・白首大根(練馬・三浦・大蔵など)
・聖護院大根(丸大根)
・桜島大根(超大型)
・守口大根(細長く漬物向き)
・辛味大根(おろし向き)など
適正土壌pH: 5.5~6.5
発芽適温: 15~30℃
生育適温: 17~20℃
種まき時期:
・春まき:3月~5月
・秋まき:8月下旬~9月中旬
収穫時期:
・春まき:5月~7月
・秋まき:10月~2月
栽培のポイント
大根は移植に不向きな野菜です。根がまっすぐに伸びる性質があり、途中で根が傷つくと二股になったり変形したりするため、必ず直播き(じかまき)で育てましょう。
また、根が地中深くまで伸びるため、土を深く、よく耕しておくことが重要です。耕深は最低でも30cm以上を目安に、石や硬い土塊は取り除き、根の伸長を妨げないよう整備します。
さらに、栽培時期や気温にも注意が必要です。大根は比較的冷涼な気候を好むため、春まきや秋まきが適しています。高温期には「とう立ち(花芽形成)」が起こりやすく、品質が落ちることがあります。特に春まきの場合は早めの種まき(3月〜4月上旬)を心がけましょう。
発芽率が高く育てやすい野菜ですが、適切な間引きや追肥、病害虫の予防が収穫の成否を左右します。根の部分が太く、地上に姿を現す頃には収穫も近づいていますので、生育状況をこまめに観察しましょう。
ポイントまとめ:
- 移植せず、必ず直播きにする
- 根が深く伸びるので深く耕す
- 適期を守って種まき(春まき・秋まき)
- 高温期のとう立ちに注意
- 発芽率は高く、初心者にもおすすめ
主な品種と特徴
大根には多くの品種があり、形状・大きさ・味わい・栽培時期によって選ぶことができます。家庭菜園でも育てやすく、季節や用途に応じて品種を使い分けるのがポイントです。
青首大根(あおくびだいこん)

現在、市場で最も広く流通している標準的な品種です。首の部分が緑色をしており、身は白くて柔らかく、みずみずしいのが特徴。煮物やおろしなど幅広く使えます。家庭菜園でも生育が安定しており、初心者向きです。
白首大根(しろくびだいこん)

昔ながらの大根で、全体が白く、やや長めでスマートな形をしています。代表的な品種には以下のようなものがあります:
- 練馬大根: 東京・練馬発祥の伝統品種。細長く、辛みが強くて風味豊か。漬物向き。
- 三浦大根: 神奈川・三浦半島の伝統品種。太くて大型。煮物にも向くがやや育てにくい。
- 大蔵大根: 煮崩れしにくく、煮物に最適な秋冬大根。やや短めで尻太タイプ。
聖護院大根(しょうごいんだいこん)

京都の伝統野菜で、丸くてずんぐりとした形が特徴。肉質が緻密で煮崩れしにくく、ふろふき大根などにぴったりです。一般的な大根よりも播種の時期を少し遅らせて育てられるので、秋の後半にも種まきが可能です。
桜島大根

鹿児島県の特産で、世界最大級の大根として知られています。球形で直径30cm以上に育つこともあります。主に暖地向けで、家庭菜園ではスペースがある方におすすめです。
守口大根(もりぐちだいこん)
愛知県の伝統野菜。非常に細長く、1メートルを超えることもあるユニークな大根で、守口漬けに使われます。栽培は難易度が高め。
夏大根・春大根(品種例:「夏祭」「春の守」など)
高温期でもとう立ちしにくいように品種改良された大根。耐暑性に優れ、春~夏に収穫できるタイプです。暑さに強い一方で、身がややス入りしやすい傾向があるため、収穫適期を逃さないよう注意が必要です。
選び方のポイント:
- 育てやすさ重視 → 青首大根
- 煮物・料理向き → 大蔵大根、聖護院大根
- 伝統・個性派品種 → 練馬、桜島、守口など
- 暑さに対応 → 夏大根・春大根の専用品種
由来・歴史
大根の起源は地中海沿岸および中央アジアとされており、その栽培の歴史は非常に古く、紀元前2000年頃の古代エジプトにはすでに栽培の記録があります。ピラミッド建設に従事した労働者たちに与えられていたとも言われており、スタミナ源として重宝されていたようです。
その後、大根は東方へと伝わり、紀元前500年頃には中国での栽培が確立していたとされています。そして日本には弥生時代に中国・朝鮮半島を経由して伝わり、徐々に各地に広まりました。
日本では特に江戸時代に大根の品種改良と栽培が盛んになり、各地に特色ある品種が生まれました。例えば「練馬大根」や「三浦大根」、「大蔵大根」などはその代表で、それぞれの土地の気候や土壌に適した品種が育成されてきました。
現代では「青首大根」が主流となっていますが、これは昭和以降に普及した品種で、扱いやすく収穫しやすいことから市場でのシェアを急速に拡大しました。
一方、欧米では「大根」といえば「ラディッシュ(赤い二十日大根)」を指すことが多く、日本で一般的な大型の白い大根はむしろ珍しい存在です。
このように、日本では古くから各地で改良され、用途や地域に応じた多様な品種が栽培されてきたという背景があります。大根はまさに、日本の気候と食文化の中で独自の進化を遂げてきた野菜といえるでしょう。
栽培カレンダー・期間
大根は春まき(3月〜5月)と秋まき(8月下旬〜9月中旬)の両方が可能で、年に2回の栽培チャンスがあります。それぞれの種まき〜収穫までの期間はおよそ2ヶ月前後。気温や品種にもよりますが、比較的早く育つため、計画的に栽培すれば長い期間楽しめます。
春まき
- 種まき:3月〜5月上旬
- 収穫 :5月〜7月
春は気温の上昇とともに「とう立ち」しやすくなるため、早めの種まきがポイントです。
秋まき(主流)
- 種まき:8月下旬〜9月中旬
- 収穫 :10月〜2月
秋まきは生育が安定しており、品質の良い大根が収穫できます。秋冬の定番作物として最もおすすめの時期です。
栽培スペース・間隔
大根は地中深く根を伸ばすため、広めのスペースと深耕した土壌が必要です。適切な株間・畝幅を確保することで、根の伸長が妨げられず、形の良い大根を育てることができます。
株間・条間
- 株間:40~50cm
- 条間(二条まきの場合):30cm前後
間隔が狭すぎると根が互いに干渉し、変形や生育不良の原因になります。発芽率が高いため、最初から1粒ずつ間隔をあけて直播きする方法もおすすめです。
畝(うね)の幅と高さ
- 畝幅:60~70cm
- 畝の高さ:10~15cm程度が目安
畝を立てることで排水性が高まり、根腐れや病気の予防につながります。大根は特に過湿に弱いため、水はけの良い畝づくりが重要です。
土づくり・畝づくり・マルチング
土づくりの基本
大根は根がまっすぐ深く伸びる根菜類の代表格。そのため、土壌の深さ・柔らかさ・排水性が栽培成功のカギを握ります。
- 耕す深さ:30cm以上
- 土が浅かったり硬いと、根が途中で曲がったり、二股になる原因になります。
- 石や未熟な有機物は取り除く
- 根の障害物となるため、植え付け前に丁寧に除去しておきましょう。

肥料の入れ方(元肥)
- 元肥はやや控えめに
- 肥料が多すぎると根が肥大せず、葉ばかり茂ったり、割れやすくなります。
- 苦土石灰を播種2週間前に施す
- pH調整のために1㎡あたり100~150gが目安(目標pH5.5~6.5)。
堆肥や有機肥料は事前にしっかり土になじませ、種まき部分には直接触れないように注意します。
畝づくり
- 畝幅:60~70cm
- 畝の高さ:10~15cm程度
排水性を高めるために、やや高めの畝を作ると効果的です。特に秋まきの場合、雨が多くなる季節に備えておきましょう。
マルチング(必要に応じて)

- 黒マルチ(ビニール)を使用すると地温が上がり、雑草抑制にもなる
- 春まき初期/秋の遅まきには有効
- 初期の地温不足、乾燥防止対策、冬期の地温低下を和らげるためにも使えます
マルチは必須ではありませんが、寒冷地や種まき時期が遅れた場合には特に有効です。
種まき・苗の植え付け(直播き)
大根は根をまっすぐ伸ばすことが大切な野菜です。そのため、移植は向かず、必ず直播きで育てましょう。
種まきの時期
- 春まき:3月~5月
- 秋まき:8月下旬~9月中旬
春まきは「とう立ち(花芽ができる)」に注意し、なるべく早めに種をまくのがポイントです。秋まきは温暖な気候で生育が安定するため、初心者にもおすすめです。
種まきの方法
条まき(2条植え)または点まき(穴まき)

- 条まき: 畝の両側に2本のまき溝を作り、2~3cm間隔で種をまく方法。間引きながら育てます。
- 点まき: 株間40~50cmごとに深さ1~2cmのまき穴をあけ、1穴に2~3粒ずつまいていく方法。
初心者には点まきがおすすめで、間引きの手間が少なく管理しやすいです。
覆土と鎮圧

- 種をまいたら薄く1~1.5cm程度土をかぶせ、手のひらや板などで軽く押さえて鎮圧します。
- 鎮圧により土と種が密着し、発芽がそろいやすくなります。
発芽適温:15~30℃

- 1週間程度で発芽します。気温が足りないと発芽が遅れるため、必要に応じて不織布などで保温しましょう。
間引き・整枝
大根の栽培では、間引きがとても重要です。間引きのタイミングや方法を適切に行うことで、形の良い、まっすぐな大根に育ちます。
間引きの目的
- 発芽率が高いため、1ヶ所から複数の芽が出ることが一般的です。
- そのまま放置すると根がぶつかり合って形が崩れたり、十分に太れなかったりするため、間引いて1本にします。
間引きのタイミングと方法
① 1回目の間引き(本葉1~2枚)

- 種まきから10日~2週間ほどで本葉が出始めます。
- 1ヶ所あたり2~3本残して、それ以外をハサミや手で間引きます。
- 間引いた後は、軽く土寄せして株元を安定させましょう。
② 2回目の間引き(本葉4~5枚)

- 本葉が増えてきたら、最も元気な1本を残して最終的に1本立ちにします。
- このタイミングで株間が40〜50cm程度になるよう調整します。
整枝について
- 基本的に大根は整枝の必要がない野菜です。
- 葉が混み合っている場合や風通しが悪いと感じた場合に、外葉を数枚取り除く程度でOKです。
間引き菜の活用
間引きで取り除いた若い葉は、おひたしや味噌汁の具材、炒め物にも使えるので、捨てずに美味しく活用しましょう。
追肥・土寄せ
大根は比較的少ない肥料でも育ちますが、タイミングよく適量の追肥と土寄せを行うことで、根の肥大が安定し、品質のよい大根に育ちます。
追肥のタイミングと方法
① 1回目(本葉4~5枚の頃)
- 最初の間引きが終わった直後が目安。
- 畝の肩(株から10cmほど離れた場所)に化成肥料(8-8-8など)を1株あたり10g程度まいて、軽く土と混ぜ込みます。
② 2回目(本葉6~7枚、根の肥大が始まる頃)
- 根が太り始める大事な時期。収穫の3~4週間前が目安です。
- 同様に株の周囲に追肥し、必要に応じて軽く土を寄せて根元を安定させます。
※春まきの大根は生育スピードが速く、追肥を省略しても育つ場合があります。様子を見ながら調整しましょう。
土寄せの目的とポイント
- 追肥のついでに軽く株元に土を寄せておくと、根が安定し倒伏防止にもなります。
- 根が地表に露出しすぎると緑化(首の部分が緑色になる)したり、ひび割れを起こすことがあるため、適度に覆うのが理想です。
注意点
- 肥料が多すぎると、根の割れ、ス入り、葉ばかり茂る原因になるため、適量を守りましょう。
- 雨の直後や乾燥時は、施肥後に軽く水を与えることで吸収が促進されます。
収穫と保存
大根の収穫タイミングは、根の太さと葉の状態を見て判断します。早すぎると細く、遅すぎると「ス入り」や「とう立ち」で品質が落ちるため、適期収穫が重要です。
収穫の目安


春まき:5月~7月
- 種まきから約60~70日後が目安。気温の上昇により生育は早め。
- 葉がよく茂り、根の上部が地上に顔を出して太ってきたら収穫適期です。
秋まき:10月~2月
秋まき大根の収穫は、種まきから約70~90日後が目安です。気温が徐々に下がってくるため、生育はややゆっくりになりますが、そのぶん品質が安定しやすくなります。
冬場になると大根の生育はほぼ停止し、「とう立ち」や「ス入り」といった品質低下のリスクがほとんどなくなるため、収穫のタイミングに余裕が持てるのが秋まき栽培の利点です。気温が低いこの時期の畑は、いわば天然の冷蔵庫のようなもの。必要なときに必要な分だけ、畑から順次収穫して利用することができます。
ただし、寒冷地では注意が必要です。厳しい冷え込みがある地域では、大根が凍ってしまう場合があります。凍結した大根は組織が壊れ、食味が大きく低下するか、食べられなくなることもあるため、あらかじめ天候を見て早めの収穫を検討しましょう。
もっとも、凍結するのは一般に地表に露出している部分であり、土中に埋まっている部分は凍りにくい傾向にあります。霜が降りる程度の寒さでは、根は無事でも茎や葉は凍って傷むことがあります。
収穫適期まで育った大根の茎葉は硬く、筋も多いため、通常は葉を利用せずに廃棄することが多いです。一方、間引きの際に出た若い大根の葉や茎は柔らかく、炒め物や味噌汁の具などに美味しく利用できます。
成熟した大根の茎葉も、霜が降りる前であれば刻んで煮物などに使うことができますが、すでに凍ってしまったものは食味が落ちるため、無理に使わず処分するのが無難です。

※「とう立ち」や「ス入り」は収穫遅れのサイン。特に春は気温上昇とともにリスクが高まります。
収穫の方法
- 根元を片手で押さえ、葉の根元を持って真上にゆっくり引き抜く。
- 抜けにくい場合は、周囲の土を軽くほぐしてから掘り出しましょう。
- 葉をつけたままにしておくと根の栄養が吸われてしまうため、収穫後すぐに葉を切り落とすのがコツです。
保存の方法
短期保存(冷蔵庫)
- 葉を切り落とし、新聞紙に包んで冷蔵庫の野菜室へ。1~2週間保存可能。
中長期保存(屋外・土中)
- 冬場(0~10℃程度の気温)であれば、新聞紙に包んで涼しい場所に立てて保存するのが理想。
- また、土に埋めて保存する「土中保存」も有効。湿度を保ち、冷害を防げます。
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